不動産取引が盛んになってきますと、関係者同士で紛争が生じる可能性も高まるでしょう。事前に十分調査を、所有不動産の運用に細心の注意を払っていても紛争に巻き込まれてしまう事もあるかもしれません。
誰しも争いごとに巻き込まれたくはないものですが、ここでは万が一、紛争に巻き込まれて当事者となってしまった場合について書いていきます。
不動産関係の紛争ですと、その金額も高額になりますので、大きな損失が生じないような解決方法や救済方法を知っておくといざという時に役に立つでしょう。
トラブルが発生してから慌てて調べているうちに、適切な対処が取れなかったり、初動が遅れてしまったりしますと、2次被害、3次被害へと及ぶ危険性もあります。
紛争に巻き込まれていない冷静な時こそ、いざという時の備えを学ぶ良い機会ではないでしょうか。
では紛争はどのような場面で起こるのでしょうか。
それは、①デベロッパーと購入者、②デベロッパー以外の売主と購入者、③転売時の買い手と売り手、④貸し主と借り主、などの間で起こります。
売り手がカンボジア人やカンボジア企業で、購入者が外国人の場合もあります。
解決方法には、大きく分けて①裁判による解決 と ②仲裁機関による仲裁 の2パターンがあります。
紛争の解決となれば、司法による解決・救済がまず有効な手段となります。
ただ、当然ながら日本と異なる部分もありますのでいくつか注意も必要です。
最終的な解決手段の1つとして、裁判にかけ裁判所の判決による手段があります。
裁判所には、①カンボジア国内の裁判所 と ②外国の裁判所による裁判 の2通りがあります。
なお、デベロッパーとの契約では契約書の雛形に紛争解決についての記載があり、契約の時点で紛争が生じた時の解決手段が決まっている場合が一般的です。
つまり、裁判で解決するか、後述する仲裁によって解決するかは契約書においてあらかじめ明らかにしておきましょう。
参考に日本人がカンボジアに対して行う場合を見てみましょう。
ここで重要になるのは、「裁判の承認や執行について規定する条約」が締結されているか否かです。
現在では日本とカンボジアでこのような条約は結ばれていません。つまり、日本で裁判を行って、仮に勝訴してもカンボジア国内で日本の判決を執行することが出来ないのです。
この状況を踏まえますと、裁判による解決を図るなら、カンボジアで裁判を行わなければ意味が無いと言えます。
それでは、実際にカンボジアの裁判制度を見ていきます。
カンボジアの裁判所は三審制です。
三審制とは、日本の裁判制度と同じです。つまり、地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所の3つから成り立っています。
裁判となりますと「訴訟法」がポイントになります。不動産紛争に関するのは「民事訴訟法」によります。
実は、カンボジアの民法や民事訴訟法は日本の法整備支援を受けて制定されたという経緯があります。ですので、かなりの部分が日本の民事訴訟法と内容が似ているのです。
この民事訴訟法に、裁判手続きや執行手続きについて定められています。
ちなみに、ディスカバリー制度や陪審員制度はありません。
ディスカバリー制度とは、訴訟当事者同士が訴訟に関連する資料を開示する制度の事です。
陪審員制度とは,有罪かどうかは陪審員のみが行い,裁判官法解釈や量刑を行う制度です
〈注意点〉
実はカンボジアの裁判官は法律に関してそこまで詳しくないのです。驚きですよね。
ですから、裁判の時には法律に関して十分に精通している弁護士を見つける事が重要です。優秀な弁護士は、裁判を起こす時だけでなく、普段カンボジアで投資や事業を行う時にも色々と相談できる頼もしい相手となるでしょうから、良い弁護士を普段から探して交流を持っておくとよいでしょう。
さらに、日本では考えられないかもしれませんが、カンボジアでは裁判所の汚職が問題とされる事が多いのです。そのような状況のせいで、世間からの裁判所へのイメージは悪く、そこまで信用される機関ではないというのが残念ながら実情でもあります。
せっかく苦労して裁判を起こして勝訴したというのに、賄賂を贈ったなどと世間に思われたりしたら嫌ですよね。
また、裁判では契約書の内容を扱う機会が出てきます。カンボジアでは契約書で使用されている言語に関わらず効力があります。
しかし、裁判ではカンボジア人が英語を理解できない事を理由に、契約書の有効性が否定される場合があります。
外国人が当事者である場合には、契約書を英語で作成する場合が多いのですが、英語だけでなく、クメール語などの他の言語を使うか、併記するなどの方法を取る方が良いでしょう。
特に不動産売買契約書などの重要な契約書については注意が必要です。
最終的な解決手段のもう1つの方法は仲裁機関を利用する事です。
仲裁機関にも、①カンボジア国内の裁判所 と ②外国の裁判所による裁判 の2通りがあります。
裁判による解決の項目の所にも書きましたが、仲裁手続きによる解決を希望する場合には、契約書などであらかじめ明らかにし、合意しておかなければなりません。
この点からも、紛争への備えは契約時には始まっていると言えます。紛争が起こってから別の手段で解決したいと思いついても、希望通りに物事が進まない可能性があるのです。
カンボジアでは、「外国仲裁判断の承認および執行に関する条約」に加盟しています。これによって、裁判の判決と異なり、外国での仲裁判断をカンボジアでも執行することが可能なのです。
カンボジアの仲裁機関は、「国立商事仲裁センター」になります。こちらがカンボジア唯一の仲裁機関です。
こちらで仲裁する手続きを行います。
手順は次の通りです。
①当事者の同意を得る。
仲裁を行う為には当事者の仲裁合意が必要です。契約書など、書面で合意が無ければなりません。
②1回の手続きで仲裁が可能です。
各当事者が仲裁員を選定しますので、公平性が高いのが特徴です。
③合意が無かったら紛争裁判
書面による合意が得られなかった場合には、裁判によって解決されることになります。
・メリット
外国の仲裁機関においても、透明性や公平性の高さがメリットと言えます。シンガポールの仲裁センターが利用されることも多いです。
・デメリット
外国の仲裁機関によって仲裁判断がされたとしても、それで全てが終わりという訳ではありません。カンボジアで外国の仲裁機関の仲裁判断について、承認が必要になります。
実際に執行が決定された事例は大変少ないのが実情です。
ここまで紛争の解決方法について書いてきました。中には対処が難しい紛争が生じる可能性もあります。小さな紛争については、現地の専門家などに相談し、早めに対処していくことが有効でしょう。
様々な状況を考慮しますと、カンボジアで裁判を行うのが有効な選択肢とも言えます。
一方で、方法を熟知していたとしても状況によっては解決が難しい場合もあります。ここでは、厄介なケースをご紹介します。
〈難しいケース〉
①不動産の権利を取得していない場合。
コンドミニアムに関して生じうる問題です。
②物件が完成しない。
資金難などで物件が完成しないリスクもあります。物件が完成しなかったら元も子もないですね。情報収集や購入時の所でも書きましたが、購入時には、売り手であるデベロッパーが信用に値するか、過去の実績はどうか、資本力があるか十分に確認しましょう。
③デベロッパーが破産状態である。
これも同じく、購入元の情報は十分に確認することが大切です。
④売主が権力者である。
特に土地の所有者が権力者の場合には注意が必要です。有力な権力者の土地ですと、その権力が裁判や仲裁にも影響を及ぼす可能性があるのです。
裁判の所でも述べましたが、裁判所の信用は低く、汚職の問題も生じていますので、権力者に都合の良い判決になってしまうリスクもあります。
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