カンボジア不動産投資を行うにあたり、全体の流れは次のようになります。
ステップ1 不動産情報の調査、計画の策定・決定
ステップ2 不動産取得手続き
ステップ3 運用
ステップ4 売却
本章から、様々な制約のある外国人がどのように不動産投資をしていくか、具体的に書いていきます。
まずは外国人がカンボジアの不動産を取得する方法から見ていきます。
法的には最もリスクの少ない方法とも言われています。しかし、日本人の場合ですと、日本国籍を失うというデメリットも存在します。
カンボジア以外の外国も投資対象と考える方も多いと思いますので、この方法は現実的に難しいかもしれません。
カンボジア国籍を取得する以外にも方法はあります。
ここでは、主に「ノミニーの利用」による方法について書いていきます。
ノミニーとは、
「法人の役員や株主を第三者名義で登記できる制度」
の事を言います。
ただし、ノミニーを用いた手法は違法と判断される可能性もあり、大きなリスクが存在しているという主張もあります。
実際には、海外不動産投資をする場合にはノミニーを用いた手法が多く利用されておりますので、利用するためには制度を十分に理解するのが大切です。
先にも述べましたが、カンボジア国内に営業拠点と登記上の事務所が有り、カンボジア人またはカンボジア国籍の法人が合計51%以上の議決権を保有する会社でしたら不動産を所有することが出来ます。
そこで、具体的には次のような方法があります。
①実質的には投資を行わないカンボジア人に株式の51%以上を保有させることで、会社をカンボジア国籍にして、不動産を保有する。
②実質的には投資を行わないカンボジア人個人の名義で不動産を保有する。
実際の外国人投資家の権利や利益は、①の場合はノミニーの会社との契約によって、②の場合はノミニー個人との契約によって保護されます。
しかし、ノミニーによる手法にもいくつか問題点があります。
①ノミニーによって会社を乗っ取られる。
②ノミニーによって勝手に不動産を売却される。
③海外にいる外国人投資家の目を盗み、書類などを偽造する。
などです。
たとえ外国人投資家がノミニーとの間で、不動産を勝手に売却しないような契約を結んでいたとしても、ノミニー側は会社の株式の過半数を保有しておりますので、多くの事柄を単独で行う事が出来てしまいます。
ノミニー個人の場合でも、ノミニーが死亡した場合、相続などで契約などの理解不十分な人物が新たなノミニーとなってしまう危険性もあります。
カンボジア人ノミニーが実質的に全く投資を行わないという事になりますと、ノミニーが外国人投資家に名義を貸し、カンボジア憲法の規制から逃れる為だけに形式的に設立された会社と見なす事も出来ます。
今日までは違法と裁判所などに判断されたという例はないそうですが、将来的にはどうなるか分からない面もあります。
ノミニー会社を用いる場合は会社設立の手続きが必要となります。
流れは次のようになり、それぞれ2か月程度かかります。
①商業省での設立登記手続き
②税務署での税務登録手続き
③労働職業訓練省での事業所開設申告
手続きには数千ドルの費用が必要となります。
会社名義の金融機関口座は、①商業省での設立登記手続が完了したら設立可能です。
設立後も、毎月の月次申告、毎年のライセンス・情報の更新手続き、事業税の支払いなど、様々な手続きや支払いが必要です。
これらの諸費用などは、投資目的に設立したノミニー会社であり、実際には何も事業を行っていなかったとしても必要となります。
カンボジアでは、様々な面で法律と実務とで乖離が存在しています。会社設立に関しても同様です。ここではノミニー会社を設立する際の注意点について、法律と実際の運用とを比較しながら確認していきます。
会社法では、「カンボジア人またはカンボジア国籍の法人が「51%」以上の議決権を保有する」と規定されています。
このまま運用されれば、カンボジア国籍の会社が株式を51%以上保有していれば良いという事になります。本来はこれで不動産を保有することが出来るはずです。
ところが、現実にはそう簡単にはいかないのです。
実際に過去になされた解釈に次のようなものがあります。
「不動産の買主となる会社の株式のうち、51%以上をカンボジア人が実質的に保有しなければならない」として、法律上は条件を満たしているにもかかわらず、移転登記を拒否されたのです。
次のような事例を挙げてご説明します。
・登場人物
A氏・・・日本人。C社にE社の51%の株主になってもらいE会社名義で不動産を購入したいという意向がある。
B氏・・・日本人でA氏の友人。C社株式を49%保有している。A氏の意向を実現するにはB氏が保有しているC社株式が重要な役割を担う。
C社・・・カンボジア国籍。株主構成はB氏49%、D氏51%)。
D氏・・・カンボジア人。C社株式を51%保有している。
E社・・・カンボジア国籍の新会社。A氏はE社名義で不動産を購入しようとしている。
この時、D氏はE社の株式の約26%を保有することになります。51%の51%で約26%という計算です。
つまり、カンボジア人D氏が所有するE社株主は、51%に満たない状態であるとし、所有権移転登記が認められなかったという訳です。
このような事態を避けるためにも、事前に十分な調査と、関係者との打ち合わせ、専門家への相談などが必要です。
これは不動産所有権を有するカンボジア人やカンボジア国籍企業から、不動産を賃借する方法です。永借権は長期間の賃借の権利の事を言います。
土地の対価を支払う代わりに、対象となる土地に抵当権や永借権の設定登記を行い、投資家が第三者に対して対抗できるようになるというものです。
ポイントは、外国人でも抵当権者となることが可能だという点です。更に、外国法に基づいて設立された法人でも可能です。カンボジア法に基づいて設立された外国籍法人に限定されません。
・メリット
①永借権や抵当権が設定されると、他の投資家が心理的に手を出しにくくなる。
②土地売却時には、買主から売買代金の支払いや、永借権や抵当権の抹消登記手続によって、投資利益を得る機会がある。
③ノミニーを利用しないので、ノミニーのデメリットが無い。
・デメリット
①土地が値上がりしたので所有者が売却する時に、貸金債務を返済して抵当権を抹消した上で、第三者に売却してしまうケースがあります。
②土地所有者が後順位抵当権を設定していた場合、被担保債務を負担する可能性があります。
後順位抵当権とは、抵当権者が複数いる場合の2番目以降の事です。
土地を売るには全ての抵当権を抹消しなければならないのですが、同じ1つの土地に複数の抵当権者がいると、2番目以降は得られない場合があるという事です。
事例
①AがBから1000万円を借りて、債務者A所有の甲土地に抵当権を設定します。
・この場合、債務者A、抵当権者がBとなります。
・Bが一番初めに甲土地に抵当権を取得したので、Bが一番抵当権者となります。
②その後、債務者Aが、別のCから2000万円借りて、Cのために甲土地に抵当権を設定したとします。
この場合、Cも抵当権者ですが、Bの次に抵当権を取得したので、2番抵当権者になります。
Cは、Bの後の抵当権者ということで、後順位抵当権者と言います。
カンボジアにおける抵当権について補足説明をします。
債権者と担保提供者との間の合意が必要です。
「登記」と「公正証書による抵当権設定契約の成立」が第三者対抗要件です。
抵当権設定登記の必要書類として「権限官署が登記手続の為に作成した文書」があります。この書類に地方自治体の長の前で署名・捺印の押印が必要です。
抵当権者は債務が履行されない時には、裁判所に抵当不動産の強制競売を申し立てる事が可能です。
優先弁済権という、ある債権者が債務者の総財産または特定財産から弁済を他の債権者に先立って受ける権利が認められています。
「抵当権の存在を証明する確定判決」か、これと同一の効力を有するもの、もしくは「抵当権の存在を証明する公証人が作成した公正証書」が必要です。
日本では登記簿謄本だけで足りますが、カンボジアではこれだけでは不十分なのです。
土地だけではなく、土地に加えて一体として構成する物や、抵当地に立つ建物に及びます。抵当権を設定された時だけでなく、設定後に付加されたものや建築されたものにも及びます。
当事者は、抵当権設定契約を結ぶにあたって、上記に反する内容で契約してはいけません。
共同抵当は可能です。
不動産登記に関する共同省令では、被担保債権額を必要的記載事項としています。
抵当権に関する記載は権利証の「負担」に関する欄に記載されます。
しかし、ここにも法律と実務とで乖離があり、省令で定められているにもかかわらず当事者が望まないと記載されないという実務上の扱いがあるのも実情です。
被担保債権額だけでなく、利息、遅延損害金などについても同様で、当事者の希望が無いと記載されません。
後順位抵当権の設定も稀です。
永借権とは長期間の賃借の権利です。具体的には、15年以上の不動産の長期賃借権の事です。
下限が15年で上限が50年です。仮に50年以上と設定しても、50年に短縮されます。
契約を更新することも可能で、その場合も上限は同様に50年になります。
書面で設定しなければなりません。
書面で設定しなければ効力が無く、期間の定めのない賃借権となります。その場合、当事者の一方がいつでも終了させることが認められています。
登記が第三者対抗要件になります。
ただし、登記されていない場合には、15年未満の期間では永借権の第三者対抗要件の規定が適用されません。代わりに不動産賃借権の規定が適用されるのです。
この場合には、不動産を現実に使用することで、使用収益を継続している事が対抗要件になります。
永借権を譲渡することが可能です。更に、担保に設定したり、転借したりする事も可能です。これらへの対抗要件は登記になります。
なお、賃借権の譲渡や転貸には、賃貸人の承諾が必要です。
デベロッパーは、区分所有建物を建設した後、建物敷地の権利証を当局へ提出することが義務付けられています。そうしますと、区分所有権の登記簿が作成され、各専有部分毎に区分所有権証明書が発行されます。
つまり、竣工した区分所有建物には、
①区分所有登記
②区分所有権利証
が存在します。投資を行う上で、これらを確認しなければいけません。
ただし、建物は土地と独立した権利の対象ではありませんので、区分所有建物以外の建物には、登記簿や権利証は作成されません。
敷地の権利証の写しや、デベロッパーや不動産屋に権利証が発行される物件がどうかなどの情報を確認することが大切です。
登記が無い物件はどうなっているかと言いますと、かなり安い値段で取引されています。値段に惹かれて購入してしまいトラブルとなるケースもあります。
登記をしないのには、敷地の購入などの借入れの為に、敷地の権利証を金融機関に質入れしているなどの事情があるそうです。その為に権利証を提出できないので、区分所有権証明書も発行されない、という事になります。
登記簿や権利証に関しては、後で詳しく説明します。
実際に区分所有建物を購入する時には、売買契約だけではなく、その管理体制の確認も大切です。区分所有建物を資産として運用していくには、適切な管理が必要だからです。
カンボジアでは政令で、デベロッパーに①管理組合の設置、②管理規約の制定を義務付けています。
しかし、実際の所はこれらが十分に備わっている物件は少ないのです。
ここでは不動産の販売方法について見ていきます。
プレビルド方式とは、建物建設前に区分の販売を始める方法です。
建設が進むにつれて、専有部分の売出価格や市場での取引額が上がりますので、最初に購入した人が得をするという見方もできます。値段が上がるのは、建物が完成する可能性が高まるからです。
しかし、建物を建築できる資金が集まらなかったり、デベロッパーが倒産したりなどの理由で、建物が完成しないというリスクもあります。実際に、数年以上建築途中のままになっている建物もあります。
デベロッパーが、着工前から建物の建築費用を集め、集まった資金で建設するのがプレビルド方式の特徴でありますので、このようなリスクも存在するという訳ですが、東南アジアではよく用いられる手法でもあります。
カンボジアでは、先に述べました供給過剰の問題と共に、投資家保護として、開発許可を取りにくくしたり、売買代金の支払いスケジュールを法令で定めたりするなどの対策を行っています。
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