ASEANにおける関税引き下げスケジュール
2019年09月17日

ASEAN経済共同体(AEC)-カンボジアのFTAネットワーク-

ASEANは2015年末にASEAN経済共同体(AEC)を創設し、モノ、ヒト、サービス、投資、資本の自由な移動を実現させました。2007年に発表されたAECのマスタープランでは、AECは、①市場統合(単一の市場と生産基地)②インフラ整備と共通政策(競争力のある経済地域)③格差是正(公平な経済発展)④域外とのFTA締結(グローバル経済への統合)、を目標としています。

 

域内の関税撤廃の流れ

 

AECでは、関税の削減・撤廃の取り組みはメインテーマになっています。1992年に提唱されたASEAN自由貿易地域(AFTA)は2010年1月にASEAN先行加盟6カ国が同国家間の関税の撤廃をしたことにより実現しました。カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム(CLMV)はASEAN後発加盟諸国として、関税撤廃について、2015年(カンボジアは一部例外品目については2018年まで)をめどに猶予が与えられました。AFTAを実施するメカニズムである共通効果特恵関税(CEPT)協定の改訂版がASEAN物品貿易協定(ATIGA)であり、原産地規制、非関税障壁撤廃、貿易自由化、通関手続きの簡素化、基準と適合性評価などを加えた広範な分野を含む包括的な協定となっています。

 

2015年1月時点ですでにカンボジアは総品目数の90%以上の品目の関税を撤廃しており、他のASEAN後発組であるラオス、ミャンマー、ベトナムと共に、関税撤廃、削減の取り組みを進めています。

ASEANにおける関税引き下げスケジュール

域内における投資の自由化

 

ASEANは1995年に締結された「ASEANサービス枠組み協定(AFAS)」に基づいて、サービス貿易の自由化を進めています。サービス貿易は大きく4つに分類され、それぞれの分類に応じてASEAN域内で自由化交渉を進めています。その中でも第3分類に当たるサービス分野の投資に関しては128分野を対象として、ASEAN加盟国資本の企業が他のASEAN加盟国に進出する場合の出資制限について緩和していくことで交渉が進められています。具体的には、ASEAN加盟国資本の企業であれば「出資比率70%以上」の現地法人を他のASEAN加盟国で設立することができる、という外資出資比率の制限緩和を最終目標としています。

 

ただ、ASEANではタイなど外資に対して独自の出資比率を設けて投資制限を行っている国がありますが、そもそもカンボジアにおいては、不動産の取得制限をのぞき、外資出資に関して制限されている分野がないので、既に多くの外資系企業が100%出資により現地法人を設立し、事業活動を行っています。カンボジアでは今後も自由度の高い投資政策は変わらないと予想されます。

 

域内における労働力の移動

 

サービス貿易の中で第4分類として「ヒトの移動」があります。ASEANでは特定分野の有資格者(熟練労働者)を対象として、ASEAN域内での移動の自由化を目指しています。具体的にはASEAN域内において、エンジニア、看護士、建築士、測量技師、会計士、医師、歯科医、観光専門家、という八つの専門家資格の相互承認協定を締結することにより、これらサービスを提供する専門家の移動の自由化を進めようとしています。

 

ASEAN最後発国であるカンボジアでは、カンボジアで育成した有資格者が他国へ流出するのではないかという懸念もありますが、2016年1月時点においては法改正手続きが進んでいないこともあって、他ASEAN諸国でも八分野の有資格者が他国で勤務した実績はないとみられています。また資格を有する者は各国の認定当局により審査されることになりますが、カンボジアではその審査のための器材や施設の整備が必要となるために、まずカンボジア国内での資格制度の整備に時間がかかるのではないかとみられています。

 

一方で、カンボジアで問題となっているのは、合法・非合法問わず、単純作業員(工場労働者、建設作業員、水産加工作業員、メイド等)の越境による就労です。特に国境を接し、カンボジアよりも賃金水準の高いタイへの労働力の流出が既におきています。一説には50−60万人がタイで就労しているともいわれており、タイ人がやりたがらない3K的な労働環境におかれているということです。経済成長を続けていきたいカンボジア政府としては、安価な人件費を武器にさらなる製造業誘致を進めながら、同時にタイなどへの越境による労働力の流出がおきないよう、国民の所得増加も目指す必要があります。

                       

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