カンボジアの一人あたりGDP
2019年07月19日

カンボジアの基礎知識-経済 その2

ドルとカンボジア

 

カンボジアでは自国通貨のリエルが発行されてはいますが、米ドルが大量に流通しています。通貨供給量に対する外貨預金の比率は年々増加しており、定期預金もほとんどがドル建てになっています。プノンペン、シェムリアップ、シハヌークビルなど、主要都市においてはほとんどの商業施設、飲食店でドルで支払いが可能で、おつりもドルで戻ってきます。リエルとドルを併用して支払うことも可能です。ただし、農村部ではドルよりもリエルの方が多く使われており、公務員の給料、公共料金、税金の支払いもリエルで行われています。

 

ちなみにタイとの国境にあるアランヤプラテート、ポイペトにはカジノがあり、そこではタイバーツが使用されています。また、ベトナムとの国境にあるバベットにもカジノがあり、そこではベトナムドンが使われています。

カンボジアの通過流通量

一般的に流通に米ドルが使われるようになるのはハイパーインフレションが起きた場合などに見られる現象ですが、カンボジアではその歴史的経緯から米ドルが広く流通するようになっています。カンボジアは1975年から1979年までポル・ポトが原始共産制を進めたことによって貨幣制度が廃止されました。貨幣所有や私有財産の保持も禁止されて銀行は壊滅、リエルの使用が一旦停止されました。ポル・ポト政権の崩壊後、1979年にカンボジア中央銀行が再建され、1980年に再導入されていますが、1991年のパリ和平協定調印後は経済復興のために多額の援助資金が米ドルで送られ、そのことで米ドルが広く使用されるようになりました。また、多くの外国人がカンボジアに居住したことで取引、売買に米ドルが主に使われ、UNTAC撤退後も国際支援機関やNGOが駐留したため、引き続き米ドルがよく利用されたということもありました。

 

その後も外国からの援助資金や政府の借り入れによって米ドルの流入は続き、外国企業からの直接投資、観光業での外貨収入が増えたことで、経済が好転した後も自国通貨以上にドルの利用が進んでいる状況になっています。

 

ドル化経済は、外国企業からすれば自国通貨との為替リスクを低減できる利点があり歓迎されています。流入したドルによって輸出を拡大させ、それがさらにドルの獲得に繋がるという好循環を生み出しています。一方、ドル化経済では中央銀行が貨幣供給量をコントロール出来ないという問題があります。中央銀行はリエルの金利を操作することはできても米ドルの金利は操作できないので、米ドルが国内流通通貨量の90%、預金の97%を占めるカンボジアでは中央銀行はそのコントロールが難しい状況になっています。中央銀行は預金準備率操作を通じてマネーサプライを調整したり、リエル相場安定のため為替市場へ介入して1ドル4000〜4100リエル程度に調整し、インフレ率の安定を図っています。また、一般的には中央は「最後の貸し手」として、一時的に資金不足に陥った金融機関に対して一時的に資金の貸し付けを行いますが、カンボジアでは中央銀行がドルを発行することができないので、各銀行が個々に経営の安定性を担保しなければならず、法定準備金額の2倍の準備資金をドル建てで保有して万一に備えています。金融政策のためには自国通貨の流通を増やすことが必要になりますが、今のところは脱ドル化の兆しは見られません。

 

消費とサービス

 

カンボジア国内には飲食店が2180店舗あり、うち952店舗はプノンペンにあると言われています。カンボジアは宗教上に食べ物の制限がないこと、好調な経済成長によってカンボジア人所得が向上していること、サービス産業の進出が容易なこともあって、飲食店を中心に外資系サービス業の進出が急増しています。カンボジアの一人当たりGDPは2013年に1000ドルを突破。2020年には1600ドルに達すると予測されています。カンボジアの家計所得について、2013年に米国の研究所が実施した18才以上の2000人に対する世論調査によると月収101〜250ドルの世帯が36%、251〜500ドルの世帯が19%、501〜1000ドルの世帯が9%、1000ドル超の世帯が8%を占めているという結果でした。

 

また、当時イオンモールが独自に行った購買力調査によると、カンボジア全体では月収400ドル以下の世帯が88%を占めているが、イオンモールの周辺5キロ圏内においては月収400−800ドルの世帯が最も多く78%、さらに1キロ圏内には800〜2000ドルの世帯が6割を超えており、潜在的な購買層を十分に確保できるとの結果がでており、これを受けてイオンモールは2012年にカンボジアに進出、2014年6月30日に約190店舗の専門店、映画館、スケートリンク、約1200席のカンボジア最大のワールドフードコート、レストラン、ヘアサロン、リラクゼーション施設、アフタースクール(ダンス、料理、キッズジムなど)などを完備した、カンボジア最大規模の地上4階建てのショッピングモールをオープンさせました。オープンから1年で1500万人が来館しており、イオンモールの進出によりカンボジアのライフスタイル、消費動向は変化していくだろうと言われています。

 

ジェトロが2015年4月に独自に行った調査によると、プノンペンに店舗を構える日系レストランは177社あります。日本大使館に登録済みの在留邦人は2000人を突破し、日本人駐在員も年々増えてきています。日本人だけでなくカンボジア人の富裕層の日系の飲食店に足を運ぶ機会が増えてきたことから、日系レストランの進出が加速しています。

カンボジアのライフスタイル

カンボジアでは2012年以降カフェブームが続いています。外国人の多く居住しているボンケンエリアにはカフェが1ブロックごとにあって乱立状態です。外国人の利用が多いですが、カンボジア人の利用も少なくなく、最新型のスマートフォンやパソコンを利用しながらコーヒーを飲み、談笑する光景が良く見られます。カンボジア人は男女ともコーヒーが好きで、そもそもは露天でも一般にコーヒーが販売されていて、それが1杯0.5ドル程度で販売されています。カフェの場合は1杯2.5ドル〜3.5ドル程度販売されているので、カンボジア人の所得からすると決して安いものではないですが、今ではカフェでコーヒーを飲むことがライフスタイルの一部になっています。

カフェブームの火付け役になったのは、BROWN Coffee and Bakeryで、カンボジア人の若手起業家が欧州に留学、欧米のカフェ文化に感銘を受けて、カンボジアで広めたいとの思いから帰国後に起業したものです。2009年に1号店をオープン、以降急速に店舗数を拡大し、2015年には10店舗を超えています。2015年末にはプノンペンの空港内にスターバックスコーヒーもオープンし、2016年以降その店舗数を拡大しています。英国の老舗コーヒーチェーンCOSTA Coffeeや、中国やベトナムに展開している韓国のベーカリーチェーンTous Les Joursなどもカンボジアに進出しています。飲食店は各国から続々と参入してきており、競争も激しいため、半年も経たずに撤退する店舗も少なからずあります。

 

飲食以外では、バイク、車を購入する世帯が増えてきています。2005年以降はバイクを購入する世帯が急増しており、2014年のバイクの登録台数は年間30万台に達しています。ホンダ、スズキ、ヤマハ発動機、川崎重工業などの日系二輪メーカーのほか、電動バイクメーカーのテラモーターズが2015年にプノンペンに代理店をオープンし、スマートフォンとつながる電動バイクの販売を開始しました。外国のメーカーを取り扱う店舗も増えてきており、イタリアのPiaggio、Ducati、オーストリアのKTM、米国のHarley Davidson、インドのTerra、Bajaj、などが取り扱われています。バイクの販売価格は車種や年式によって当然異なりますが、125cc未満のバイクであれば、中古で1200ドル未満、新車で1600ドル未満で購入が可能になっています。

 

乗用車を購入する世帯も増えてきており、プノンペン市内には日本メーカーのほか、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツなどの高級車のショールームも見られるようになってきました。しかし、自動車は輸入時に輸入税、特別税などが課せられて販売価格が高くなるためにカンボジアではまだまだ中古車のニーズが高くなっています。各自動車メーカーは中古車市場に対抗するために、アフターサービスの充実や保証、安全に力点を置いて差別化を図っています。

 

2014年にはカンボジア発の国際モーターショーが行われ、2015年末には「CamAuto」が開催されるなど、近年は自動車・バイクの展示会がカンボジアでも開催されるようになってきました。一方で、急増するバイクや、乗用車によって、プノンペン市内の交通渋滞は年々ひどくなってきています。交通ルールが徹底されていないために、交通事故による死亡率が高いことも問題で、政府は交通渋滞の緩和や交通事故防止のため、道路の拡張整備や交通完全運動を実施しています。

カンボジアの一人あたりGDP

カンボジアにおける車両登録台数

経済の課題と産業政策

 

カンボジアの主要産業は長らく米作を中心とした農業、小規模零細の食品加工・木材加工などでした。しかし、市場経済体制への移行により投資法が改正され、縫製産業を中心とした第二次産業、観光業を中心とした第三次産業が急速に成長するようになりました。産業別GDPを見ると、第一次産業が全体の3割を占めてはいるものの年々減少傾向にあり、第二次、第三産業のシェアが伸びてきています。カンボジアがさらなる成長を遂げるためには農業、縫製業、観光業以外の新たな産業の育成が求められています。

 

農業においては、2010年にフン・セン首相が「コメの生産・輸出振興策(ライスポリシー)」を打ち出し、生産から精米、輸出に致るまで、包括的な輸出振興策として年間100万トン以上の精米を輸出することを目標としました。2012年9月に開催された世界コメ会議の品評会では、カンボジア産のジャスミン米が第一位に選出され、カンボジア産のコメが世界市場で競争力を持つことを証明しました。しかしながら、収穫などは未だに手作業も多く、運搬には牛車を使い、脱穀は壁に稲を叩きつける昔ながらの作業方法もまだまだ根強く、小石が混入するなど精米の質が低いというようなこともあって、なかなか輸出が伸びていない現状があります。

 

観光業においては、アンコール遺跡群への観光が好調で、2014年には年間の外国人来訪者数が450万人を超えました。ただ、例えば2003年にはSARSの影響で観光客が激減するなど、観光業は外部的要因に大きく左右されることから収入基盤は盤石ではありません。また、アンコール遺跡群以外の新たな観光名所を創出するなど、観光業の振興策が求められています。

カンボジアの産業別GDP

                       

お気軽にお問合せ下さい