カンボジアの実質GDP成長率の推移
2019年07月12日

カンボジアの基礎知識-経済

カンボジア経済のあゆみ

 

カンボジアは肥沃な土地と水資源に恵まれた稲作を中心とする農業国家でした。1953年にカンボジア王国としてフランスから独立を果たすと、シアヌーク殿下は父王の死去した後の王位を空位にして、新たに「国家元首」を新設。殿下自らがその国家元首となって政治を取り仕切り、東西冷戦のさなか、中立政策を掲げて、東西の両陣営から公的援助を引き出すことに成功、農業開発と工業化を中心とした政策を進めました。1960年代のカンボジア、特にプノンペンは、東洋のパリ、と言われ、魅力ある都市として高く評価されていました。

 

1970年から内戦がはじまり経済状況は悪化しますが、内戦のさなかにベトナムの影響下で樹立されたカンプチア人民共和国はベトナムとソ連から経済協力を受けつつ、社会主義的計画経済を推し進めました。その際に各省庁の下に187社の国営企業が設立されています。一方で社会主義経済下では法的に認可されていなかった民間企業も零細ではありましたが、この頃に出現するようになり、煉瓦や魚醤などの国内市場向けの生産を行っていました。

 

1980年代になると、ソ連の経済が停滞しました。1985年にゴルバチョフが政権を掌握するとペレストロイカ(政治・経済の立て直し)を実行して市場経済を導入。同じくベトナムの経済も同時期に低迷し、1986年にドイモイ(刷新)政策を採用して市場経済を導入しました。他の社会主義国も次々と市場経済を導入していきました。カンボジアもまた同様に社会主義経済が行き詰まっていたことから、1985年に民間企業の設立、及び価格の自由化などを盛り込んだ第3次5カ年計画を発表、1989年に自由主義体制へ向けて憲法を改正しました。このときに国民に土地を所有する権利が認められています。内戦終結後の1993年に立憲君主制のカンボジア王国が誕生。憲法が施行され、このときに市場経済体制が正式採用されることになりました。そこからカンボジアの国家の再建と経済の復興がスタートしました。

 

1994年に投資法が施行され、ここから経済復興に向けた動きが本格化します。この投資法には外国企業を積極的に誘致する方針が強く打ち出されていて、中華系企業が安価な人件費を求めてカンボジアに進出するようになります。

1997年、フン・セン第2首相がラナリット第1首相とその側近を武力行使にて排除する政変を起こし、またもや内戦がおこるのかと国内は緊迫した事態になりましたが、ラナリット第一首相が国外へ脱出し、ウオン・フオト外相が第1首相職を兼務したことでほどなく事態は沈静化しました。ただ、この事件により、本来は同年ASEANに加入予定だったことが延期されてしまったことと、主要援助国からの援助が一時凍結されてしまったことで、カンボジアは大きな痛手を負いました。また、同年にはタイ発のアジア通貨危機が発生しています。カンボジアの外国為替市場の規模が小さく、また、国内通貨流通量に占める米ドルの割合が高かった事から通貨危機自体からの影響は限定的でしたが、通貨危機の影響を受けた国からの投資が減少する影響がありました。

 

1998年には総選挙が実施され、フン・セン氏を首相とする新政権がスタートしました。この選挙は公正な選挙として世界から評価を受け、カンボジアへの援助が再開、信頼を取り戻していきます。1999年にASEANに加盟。また、同年に米国と二国間貿易協定を結び、縫製品12品目について輸入割当制度を課すことになりました。割当枠は年々前年比で6%増加し、また、労働環境の改善が認められればさらに枠を増やすというもので、2000年、2001年、2002年はそのボーナス分も含めて3年連続で前年比15%の割当増となりました。このこともあって、2000年以降は縫製品輸出の約7割を米国向けが占めるようになりました。

 

2004年10月にカンボジアはWTOに加盟。2005年には経済特別区(SEZ)制度が導入され、これまで以上に海外企業の誘致を積極的に展開する方針を取りました。稼働第一号は2008年、プノンペンSEZでの地場企業と日本企業による合弁企業でした。

 

2008年はリーマンショックによって、縫製業の対米輸出が激減。いくつかの縫製工場が閉鎖に追い込まれました。また、建設業への投資も大きく停滞し、建設プロジェクトの多くが中断されました。また、2009年の海外からカンボジアへ訪れた観光客は216万人と前年よりは微増しましたが、リーマンショックによって客単価が低下し、観光業業収入も大きく下がってしまいました。2009年の経済成長率はマイナスではなかったものの、0.1%まで落ち込んでいます。

 

しかし、2010年にはV字回復し、6%の経済成長を達成しています。以降2019年にいたるまで毎年約7%の経済成長を維持しています。ただ、安定した経済成長の中で貧富の差が拡大し若年層を中心に不満が高まってもいきました。2013年の総選挙は、そういった人々の支持を受けた野党救国党の躍進により与党人民党は惨敗。選挙後に野党は選挙に不正があったと主張し国民議会をボイコットしたことや、全国規模のストライキが起きて政情不安になりました。2014年のはじめには最低賃金引き上げ要求デモにおいて、デモ隊と治安部隊が衝突し、4名死亡、40名以上の負傷者が出る事態になりました。この一連の事態により経済的にも7200万ドルの損失があったと言われています。

 

頻発するストライキを抑えるため政府は最低賃金に見直しに着手。2014年以降、毎年、関係者間で最低賃金の見直しを行うようになり、最低賃金は2014年の月額100ドルから2016年には140ドルになっています。縫製・製靴業の最低賃金は、カンボジアの他産業の最低賃金を決定する際の重要な指標となるため、カンボジアに進出している日系企業や、進出を検討している企業は常に注視しておく必要があります。

 

カンボジアは各国の支援を受けながら民主化と経済のための改革を進めた結果、順調に経済は発展してきています。その一方で、ODAへの依存、縫製品への輸出頼みなど多くの課題を抱えており、新たな産業の育成は急務。外国企業誘致が強く求められているところです。自動車や電子機器など多用な製造業を誘致することを目標として、2015年には2025年までの経済政策を示した「カンボジア産業開発政策(2015〜2025)」を発表しています。

カンボジアの実質GDP成長率の推移

投資と貿易

 

①投資

 

カンボジアの好調な経済を牽引する要因の一つに世界各国からの直接投資があります。カンボジアは1993年以降、積極的に外国企業誘致に取り組んできました。外国企業からカンボジアへの投資はカンボジア国内の資金不足を補い、また高い技術力がカンボジアにもたらされることで国内の生産性を高めることや、雇用機会の創出、産業の多様化など多くのメリットがあります。2010〜2014年には外国からの投資は年間10億ドルを超えました。1994〜2014年の国・地域別の投資累計額は、中国が1位で111億ドル、2位が韓国で55億ドル、マレーシアが3位で28億ドル。日本は7億ドルで11位になっています。海外からの投資は経済特別区(SEZ)以外への投資が多く、農業やホテル、商業施設の開発、港湾や道路などのインフラ事業へ多くの投資が行われています。SEZ内への投資だけを見てみると、同期間において日本が3億ドルで1位、中国が2億ドルで2位、シンガポールが1.3億で3位となっています。

 

産業別では工業が多く、特に縫製業への投資が多くなっています。近年では電子機器付属品製造や、機械・金属・電気分野への投資も増えており、工業の多様化が見られるようになってきています。外国企業からの投資が継続する背景にはSEZが機能しはじめ、南部経済回廊などのインフラ面がしつつあることや、チャイナプラスワン、タイプラスワンとして、注目されて投資環境がせいびされていたことがあると思われます。

 

②貿易

 

貿易額も年々増加しています。2014年の輸出額は68億ドルで、そのうち衣類及び付属品が53億ドルと全体の78%を占め、前年比6.9%増でした。2014年最も伸びが大きかったのは木材で、前年比52.3%増の1.15億ドルでした。同年の輸入額は103億ドルで前年比15%増。織物、製靴その他製造原料の輸入が52億で全体の5割を占めています。車やバイク、セメントなどの建設原料が増加しており、都市部を中心にカンボジア人の所得が向上し、自動車やバイクを購入する世帯が増えたことや、建設ラッシュで建設材料の需要が高まったことが要因です。

 

カンボジアと日本の二国間の貿易では、日本はカンボジアから主に衣類、履物を輸入しており、衣類の輸入額は特に2011年以降、年々急速に増加しています。それまで日本の縫製品輸入は中国からが主流でしたが、中国の人件費高騰により、ASEAN地域でチャイナプラスワンの進出先を探す企業の動きが加速し、カンボジアに工場を移管する動きが見られるようになりました。合わせて、日系の検品メーカーや、物流業者が進出し、また商社も繊維担当の駐在員を置いて本格的な生産に乗り出したことが要因となっています。一方で日本からカンボジアへは主に車・バイクや建設機械が輸出されています。カンボジアではバイクが移動手段の主力であり、個人で乗るだけでなく、改造して小型貨物牽引車やトゥクトゥクとして利用されることも多いです。また、建設ラッシュに伴い、建設機械もよく輸出されています。一方で、2012年以降は日系の電気製品生産企業の進出にともない、電子機器組み立て用の部品や生産設備も輸出が急増しています。

カンボジアの対内直接投資

カンボジアの国・地域別対内直接投資累計額 認可ベース カンボジアの国・地域別対内直接投資(認可ベース) カンボジアの業種別対内直接投資(認可ベース) 日本の対カンボジア品目別輸入(上位15品目) 日本の対カンボジア品目別輸出(上位15品目)

                       

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